COLUMN 管理栄養士コラム

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022改定の概要と栄養指導の留意点

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022改定の概要と栄養指導の留意点

はじめに

心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患は、生命や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす重大な疾患です。近年、日本人の生活習慣の変化に伴い、動脈硬化のリスクを抱える人は増加傾向にあります。

こうした背景のもと、日本動脈硬化学会は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を定期的に見直し、最新のエビデンスを反映した改定を行っています。2022年には、2017年版以来5年ぶりに新たなガイドラインが公表されました。

本記事では、この最新ガイドラインの改定ポイントを解説するとともに、特に栄養指導(食事療法)に焦点を当てて説明します。動脈硬化性疾患は日々の食事や生活習慣とも深く関わっており、適切な栄養指導が求められます。ぜひ、日々の指導の参考にしてください。

1.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022の主な改定ポイント

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」全体を通した主な改定ポイントは、以下の通りです。

  • 随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を175mg/dL以上に設定
  • 糖尿病患者のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について

・末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満に設定
・上記を伴わない場合は従来通り120mg/dL未満

  • 二次予防のLDL-Cの目標値について

・二次予防の対象にアテローム血栓症脳梗塞を追加し、LDL-Cの目標値を100mg/dL未満に設定

・二次予防の中で、以下の場合のLDL-Cの管理目標値を70mg/dL未満に設定

  ・急性冠症候群

  ・家族性高コレステロール血症

  ・糖尿病

  ・冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併

上記のように、脂質管理の基準値や目標値が細分化されました。ハイリスクな対象者には、より厳格な管理目標が設定されています。

2.栄養指導に関する改定ポイント

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」では、栄養指導に関するいくつかの改定が行われました。栄養指導に関する主な改定ポイントは、次の通りです。

  • 生活習慣の改善に「飲酒」の項目を追加
  • 食物繊維の摂取推奨量を25g /日以上に設定
  • 「果糖を含む加工食品の摂取量を減らすこと」をより強く推奨する
  • 「その他の栄養素、そのほかの食事パターンとそれらの構成食品」というトピックを新設

ここでは、それぞれの改定内容について解説します。

2-1. 生活習慣の改善に「飲酒」の項目を追加

2022年版では、動脈硬化性疾患の予防に向けた「生活習慣の改善」の項目に「飲酒」が追加されました。

多量飲酒が動脈硬化性疾患の危険因子であることは、これまで多くの研究により示されており、ガイドラインでは多量飲酒を避けることを推奨しています。特に、アルコールの摂取量は25g/日以下にすることが勧められています。

また、飲酒者は1回の飲酒量、休肝日の有無、多量飲酒、飲酒機会の頻度などの飲酒状況を確認することも重要です。ガイドラインでは、飲酒状況を確認する方法として「アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)」を紹介しています。

2-2. 食物繊維の摂取推奨量を25g /日以上に設定

2022年版では、食物繊維の摂取推奨量として25g/日以上という数値が設定されました。

従来の2017年版ガイドラインでも食物繊維の摂取は推奨されていましたが、明確な数値は設定されていませんでした。2022年版では、食物繊維の摂取は総コレステロール、LDL-C、non-HDL-Cといった血清脂質の改善に有効であり、25g/日以上の摂取は生活習慣病の重症化予防に効果が期待できるとしています。

2-3. 「果糖を含む加工食品の摂取量を減らすこと」をより強く推奨する

2022年版では、「果糖を含む加工食品の摂取量を減らすこと」がより強く推奨されるようになりました。

2017年版でも、食事習慣の改善の一環として果糖の過剰摂取に注意するように示されていました。しかし2022年版では、果糖を含む加工食品の過剰摂取について、より明確にリスクを意識するよう記されています。

果糖を含む加工食品の大量摂取は、動脈硬化性疾患に影響を与える可能性があり、その摂取量を減らすとTGの低下が期待できます。

2-4. 「その他の栄養素、そのほかの食事パターンとそれらの構成食品」というトピックを新設

2022年版では「その他の栄養素、そのほかの食事パターンとそれらの構成食品」というトピックが新設され、以下についての解説が追加されました。

  • ビタミンと動脈硬化性疾患
  • 海藻、大豆および大豆製品
  • 地中海食
  • DASH食
  • ナッツ類

ここでは、それぞれの概要を紹介します。

2-4-1. ビタミンと動脈硬化性疾患

ビタミンD、ビタミンE、ビタミンCの摂取は、心血管疾患のリスクの低減や適正な血圧の維持に有効な可能性があります。ただし、これは通常の食事から適正量を摂取した場合に限られます。

現在、サプリメントによるビタミン摂取については、一定した効果が確認されていません。また、ビタミンEを多く摂取することで心不全や出血性脳卒中のリスクが高まるなど、健康に悪影響を与える報告もあります。したがって2022年版では、サプリメントによるビタミンの摂取は推奨されていません。

2-4-2. 海藻、大豆および大豆製品

海藻を含む日本食は、心血管疾患の発症や死亡のリスクを低下させる可能性があります。ただし、海藻はヨウ素やヒ素を多く含む場合があるため、過剰摂取には注意が必要です。また、大豆および大豆製品の摂取は、冠動脈疾患と脳卒中のリスクの低減に関わる可能性があります。

2-4-3. 地中海食

野菜、果物、全粒穀物、豆、ナッツ、魚介類を多く食べる伝統的な地中海食は、心血管疾患のリスクを低下させる可能性があります。ただし、脂質を過剰摂取しないように注意が必要です。

2-4-4. DASH食

野菜、果物、全粒穀物、低脂肪乳製品が豊富で、赤身肉、鶏卵、食塩を減らすDASH食は、心血管疾患のリスクを低下させる可能性があります。またDASH食は、塩分の摂取を抑えて、カリウムとカルシウム、マグネシウムを十分に摂取する食事の参考にもなります。

2-4-5. ナッツ類

ナッツ類の摂取は、動脈硬化性疾患の発症予防に有効である可能性が指摘されていますが、日本におけるエビデンスは十分ではありません。

3.栄養指導を実践する上での留意点

2022年版の改定ポイントを踏まえ、栄養指導を行う際に注意すべき点について解説します。

3-1. 飲酒

飲酒者に対する指導では、まずAUDITなどを活用して飲酒状況を把握することが重要です。特定保健指導で使用されている「標準的な健診・保健指導プログラム(改訂版)」では、AUDITのスコアが8〜14点の人を減酒支援の対象としています。なお、15点以上はアルコール依存症の可能性があるため、専門医療機関の受診を勧めましょう。

3-2. 食物繊維

食物繊維の摂取は血清脂質の改善に有効であり、2022年版では25g/日以上の摂取が推奨されています。特に野菜、果物、全粒穀物は地中海食やDASH食にも含まれており、動脈硬化性疾患の予防において重要な食品といえます。

ただし、果物の摂取には注意が必要です。果糖が多く含まれるため、果物やフルーツジュース、缶詰の果物を摂り過ぎると、健康を損なう可能性があります。したがって、これらの食品は過剰摂取にならないように注意しましょう。

3-3. 果糖を含む加工食品

果糖を含む加工食品とは、ブドウ糖果糖液糖などを含む清涼飲料や、果糖を甘味料として使用している菓子類などを指します。これらの食品を摂り過ぎると、エネルギーの過剰摂取による肥満に加え、血中TGの増加を引き起こす可能性があります。果糖を含む加工食品の摂取が多い患者に対しては、摂取量を控えるよう指導しましょう。

3-4. サプリメントによるビタミン摂取

2022年版では、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンCは食事で適正量を摂取することが望ましいとされており、サプリメントによる摂取は推奨されていません。したがって、栄養指導の際にはビタミンサプリメントの摂取状況を確認し、必要に応じて食事からの摂取を優先することを勧めましょう。

4. 管理栄養士へのメッセージ

動脈硬化は「サイレントキラー」と呼ばれるように、自覚症状がないまま進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中などの深刻な疾患を引き起こす可能性があります。動脈硬化の進行には食生活が大きく関与しているため、日々の食事や生活習慣に十分な注意を払うことが重要です。

2022年版ガイドラインの改定ポイントをしっかりと押さえ、患者が無理なく続けられる食事プランを提案しましょう。ただし、単に「避けるべき食品」や「摂取すべき栄養素」を伝えるだけでなく、患者のライフスタイルや嗜好に寄り添いながら、実践しやすい工夫を加えることが大切です。

また、栄養指導は継続的なフォローが鍵となります。患者のモチベーションを維持し、日々の食習慣を少しずつ改善できるよう、管理栄養士として寄り添いながらサポートしていきましょう。

参考

日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

本記事は上記ガイドラインならびに関連文献をもとに、特に栄養指導に関するポイントを要約したものです。詳細や最新情報は必ず原典を参照してください。

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