COLUMN 管理栄養士コラム

2024年糖尿病診療ガイドライン改定の概要と栄養指導の変更点

2024年糖尿病診療ガイドライン改定の概要と栄養指導の変更点

はじめに

2024年、日本糖尿病学会から新たに「糖尿病診療ガイドライン2024」が公表されました。前回(2019年版)以来の大幅な改定であり、この5年間で蓄積されたエビデンスや治療技術の進歩が反映されています。

糖尿病診療では、薬物療法や血糖モニタリング技術の進化が注目されがちですが、食事療法(栄養指導)は依然として治療の「土台」と言える重要な要素です。

本記事ではガイドライン改定全体のポイントに触れつつ、特に栄養指導に関連する新たな記載や注意点を中心に解説します。患者の血糖コントロールを改善させるだけでなく、合併症のリスクを軽減し、生活の質(QOL)を向上させるためにも、最新ガイドラインの内容を押さえておきましょう。

1.ガイドライン改定の全体像

今回の改定では、2019年以降に報告された国内外の研究成果が検討され、治療薬や生活習慣指導、合併症管理に関する推奨がアップデートされています。

特に、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の心血管・腎保護効果などが取り上げられ、薬物療法の選択肢が広がったことは注目すべきポイントです。また、血糖コントロールの改善には、食事・運動療法が重要な手段である点も再確認されています。

さらに、近年関心が高まっているテーマや重要な課題が反映されていることも、今回の改定の特徴です。具体的には、炭水化物制限(糖質制限)や低GI食がガイドラインに組み込まれたほか、巻末の「トピックス」では医療ITの活用や糖尿病に対するアドボカシー活動(否定的な認識を解消する取り組み)について言及されています。

2.栄養指導に関する改定内容のポイント

栄養指導に関する今回の改定ポイント大きく7つあり、5つのCQ(クリニカルクエスチョン)と2つのQ(クエスチョン)に分かれます。CQとは推奨度を示せる臨床的疑問であり、Qは推奨度を示さない臨床的疑問を意味します。それぞれ詳しく見ていきましょう。

2-1.CQ3-2:エネルギー摂取量の制限を推奨すべきか?

2024年版から、過体重・肥満を伴う2型糖尿病おける、血糖コントロールを目的としたエネルギー摂取量の制限が推奨されることになりました。これは、食習慣を含むライフスタイルへの介入による体重減少が、HbA1cや血中コレステロール、中性脂肪、血圧に好影響をもたらすエビデンスが蓄積されたためです。

2-2.CQ3-3:炭水化物制限は有効か?

2024年版では、2型糖尿病の血糖コントロールを目的とした、炭水化物制限の有効性が示されました。ただし、有効性が認められる取り組み期間は「6〜12ヶ月以内の短期間」としています。

炭水化物制限は、合併症や薬物療法などの制約がない場合に限り、食事療法の選択肢のひとつとして柔軟に活用できると考えられます。ただし、総エネルギー摂取量を制限せずに炭水化物のみを極端に制限することは、現時点では推奨されていません。

2-3.CQ3-4:応用カーボカウントは有効か?

2024年版では、1型糖尿病の血糖コントロールを目的とした、応用カーボカウントの有効性が示されました。カーボカウントとは食事中の糖質量を把握する食事療法であり、それに応じて追加インスリン量を調整し、食後血糖値をコントロールする方法が応用カーボカウントです。

1型糖尿病の患者が応用カーボカウントを実践すると、通常の食事療法と比べて血糖コントロールが改善しやすいことが、複数の研究で示されています。

2-4.CQ3-5:低GI食は有効か?

2024年版では、2型糖尿病の血糖コントロールを目的とした、低GI食の有効性が示されました。GI(glycemic index)とは、炭水化物を含む食品を摂取した際の血糖値の上昇を示す指標です。ただし、研究結果に一致が見られないことから、2型糖尿病の血糖コントロールに対して「弱く推奨する」という記載にとどまっています。

2-5.CQ3-6:食物繊維摂取は有効か?

2024年版では、2型糖尿病の血糖コントロールを目的とした、食物繊維の積極的な摂取の有効性が示されました。ガイドラインでは特に水溶性食物繊維の有用性を検討した研究を取り上げ、HbA1cと空腹時血糖値、食後2時間血糖値が有意に低下した点、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRが改善された点に着目し、水溶性食物繊維の効果を示唆しています。

2-6.Q3-7:果物摂取を推奨すべきか?

2024年版から、糖尿病の血糖コントロールを目的とした果物の摂取に関する項目が追加されました。

果物は糖質を含むものの、食物繊維を多く含有し、GIが低いことから、血糖コントロールに影響を与えない可能性があると考えられています。しかし十分な研究報告がないため、本ガイドラインでは2型糖尿病の血糖コントロールと果物の摂取との関係について、明確な見解を示していません。

2-7.Q3-8:非栄養性甘味料を使用すべきか?

2024年版から、糖尿病の血糖コントロールを目的とした非栄養性甘味料(人工甘味料)の使用に関する項目が追加されました。

非栄養性甘味料(人工甘味料)は甘みが強いにもかかわらずエネルギーが低いため、ショ糖の代わりに使用すると、総エネルギー摂取量を抑えられると考えられています。しかし、有益な効果を示す研究が不十分なことから、本ガイドラインでは2型糖尿病の血糖コントロールと非栄養性甘味料の使用との関係について、明確な見解を示していません。

なお、本ガイドラインでは、非栄養性甘味料が糖尿病や血糖コントロールを悪化させる可能性を指摘する報告についても取り上げていますが、科学的根拠のさらなる蓄積が求められている状況です。

3.栄養指導を実践する上での留意点

実際の栄養指導では、特に目標設定と炭水化物制限食の取り入れ方に注意しましょう。

3-1.患者の背景に合わせた目標設定

患者の年齢やライフステージ、合併症のリスクなどはさまざまであり、一律の対応ではなく、患者の状況に応じた個別化が求められます。以下のケースを参考にしながら、患者に応じた最適な目標を設定しましょう。

小児・思春期:発育や成長に必要とされるエネルギーを確保しつつ、栄養バランスにも配慮する。肥満を伴う場合は、標準体重を基準にエネルギー摂取量を調整するが、長期的に維持できる範囲で設定することが大切である。

妊婦:エネルギーの付加量は肥満度のほか、母体の体重や胎児の成長などを考慮して判断する。血糖コントロールのために分割食を実施する場合、仕事や生活リズムに合わせて回数やエネルギー配分を調整する。

高齢者:目標体重は柔軟に設定する。特に75歳以上は現体重に基づき、フレイルやADL(日常生活動作)の状況、合併症、体組成、身長、食事の摂取状況、代謝状況を踏まえて判断する。エネルギー摂取量は、年齢や性別、肥満度、身体活動量、治療に対する積極性を考慮する。

腎症を合併している場合:たんぱく質摂取制限は、栄養障害のリスクがない範囲で行えば、腎症の進行を抑える可能性がある。ただし、患者の年齢、サルコペニアやフレイルを含む栄養状態、治療に対する積極性、QOLなどを総合的に判断して検討する。

3-2.炭水化物制限食の取り入れ方

炭水化物制限食を取り入れる場合は、以下の点に留意しましょう。

6〜12ヶ月の短期介入で効果を見極める。
・適切な摂取エネルギー管理を行い、極端な炭水化物の制限は行わない。
・合併症がある場合や薬物療法を行っている場合は、炭水化物制限を行わない。

極端な炭水化物制限食は推奨されないものの、患者によっては緩やかな炭水化物制限により血糖コントロールが改善する可能性があります。炭水化物の摂取量や総エネルギー摂取量は、管理栄養士による適切なサポートが求められます。

4.管理栄養士へのメッセージ

2024年版の糖尿病ガイドラインにおいても、栄養指導(食事療法)は糖尿病治療の基盤であり、最新エビデンスを踏まえた柔軟な個別化が鍵とされています。そのため、管理栄養士だけでなく、医師や看護師、薬剤師などがチームとして連携し、患者の状態や生活、価値観を踏まえたサポートを提供することが重要です。

患者の食生活は、個人の嗜好やライフスタイル、家族構成、経済状況など多くの要因に左右されます。画一的な基準を押し付けるのではなく、個々の患者に寄り添った食事療法を提案していきましょう。

参考文献・情報源

日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
日本糖尿病学会公式サイト

本記事は上記ガイドラインならびに関連文献をもとに、特に栄養指導に関するポイントを要約したものです。詳細や最新情報は必ず原典を参照してください。

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